《商品情報》
【プレイ人数】2人 【対象年齢】10歳以上
【対戦時間】30~50分
■カード54枚
(鬼陣営札22枚、付喪神陣営札22枚、鬼陣営戦略札5枚、付喪神陣営戦略札5枚)
■A3プレイマット兼解説書2枚
《遊ぶ前のご注意》
●簡単に遊べるものではありますが人によってはかなり戦略を練る為頭を使う関係で一日一人あたり1回~2回までのプレイを推奨します。
●解説書兼プレイマットは破れやすいものになっている為取り出す際は慎重に取り出す事をお勧めします。また開封後はセリアなどで売られているA3アクリルパネルに入れて保管されると二回目以降遊びやすくなります。
●カード本体にPP加工は施しておりません。カードスリーブに入れる事を強くお勧めします。63×88mmスタンダードサイズ対応
またパッケージはスリーブに入れても収納出来る使用になっております。
親子で遊ばれる方、
万が一ルールが難しいと感じた方へ
各陣営5枚の戦略札は使わず総大将や姫いずれかが敗退でゲームセット。
始めは各陣営札の【力】★の数と【行動】だけで勝敗を決めてみてください。
慣れて来たら各陣営5枚の戦略札を使ってみてください。
さらに慣れて来たら各カードの【能力】、【特製】も加え真剣勝負をお楽しみください。
付喪神陣営《足軽》(式子)について
カード内特製:《鬼術師》能力使用でと記載しておりますが正しくは《陰陽師》能力使用でとなります。
2マス進める札の移動について
足軽、支援者、村民、足軽大将
上記役職は2マス進む事が出来ます。また他の役職同様
1マスのみの移動も可とします。
戦闘時の能力発動目印について
Q:戦闘時、表向きにした際に能力を使わずに戦闘し、後に能力を発動したかどうかわからなくなる場合どうしたらいいか?また《足軽》復活時にどの足軽を復活したかが分からないのでチップか何かが欲しい
A:カードを上下逆向きに置いてください。
《足軽》については一回目の敗退時に他の札と分けておき、復活後の敗退時は他の札と合わせて墓地に置いてください。
遊び方 其の一《通常戦》
※一度表向きにした陣営札はそのまま表向きにしておく
自陣内能力発動時も札を表向けるものとする
一、両陣営戦略札5枚を予め除き、残りの陣営札をシャッフルする。
二、陣営札シャッフル後、山札エリアに裏向きで重ねて置く。
三、山札から5枚を自陣内に裏向きで並べて配置する(以降自身は何度も確認してよい)。
四、じゃんけんをし先手後手を決める。
五、1手に1枚のみ札を次の内いずれかに従い動かす事が出来る。
●【行動】に従い札を動かす。敵陣営札に上下左右いずれか隣接した場合は戦闘となり両陣営札を表向きにし勝敗を競う。
●【能力】に従い発動する。基本は1枚につき一度まで発動でき、戦闘では基本先手で先にしかけた時のみ発動出来る。
●【自陣内入れ替え】自陣内にいる札は配列を入れ替える事が出来る。ただし1枚(1手)とする。
※山札のカードは入れ替え不可、自陣が1枚敗北する度に補充する。(補充は1手とみなさないものとする)
六、戦闘になった場合は【力】の★の数で勝敗を決定する(同数は相打ち)。
敗北した札はプレイマット外に除け山札から1枚自陣内に出陣させる。勝利した者はその場に留まる。
七、勝敗に基づき決定しゲーム終了となる。
遊び方 其の二《鬼畜戦》
※基本は通常戦と変わりませんが下記の点が異なります。
《鬼畜其の一》
●戦略札は【軍師】が敗れた時点で使用不可
《鬼畜其の二》
●戦闘時、裏向きのまま後手に勝敗を確認してもらう
勝負の掟
その一●初期両陣営配置時《姫》、《総大将》が出た場合のみ引き直し可とする。
その二●山札がまだある場合、両陣営の場には常に5枚札が揃っているものとする。
足りなくなった場合は必ず山札一番上から出陣させる事。
その三●《足軽》の復活は《鬼術師》、《陰陽師》の能力のみ可。(最大6枚まで)
再び敗れた場合は以降復活は不可とする。上記2役職のみ1枚一手で発動可能。
その四●上で復活した《足軽》は(その二)の5枚には該当しないものとする。
その五●(その三)で復活した《足軽》の配置は自陣内または1マス上(山札1マス上含む)とする。
その六●山札置き場は戦闘不可。山札がなくなった際に自陣営となる。
勝敗
●相手札が3枚以下の時、敵陣に侵入し勝利。侵入されれば敗北となる。
●《姫守》がいない状態で《姫》の闇討ちを行い勝利。姫守が残っている場合は続行、
※《姫守》が山札内にまだ眠っている場合で姫が闇討ちにより打ち取られた場合は敗北。
●影武者が場にいない状態で《総大将》が打ち取られる。
●双方《総大将》、《姫》のみになり戦闘が硬直状態になった場合は引き分けとする。
あらすじ
付喪神達が暮らす《夢幻世界》と、鬼族達が暮らす《鬼神界》
二つの世界は隣り合わせにあり、何者かの陰謀にそそのかされた鬼族の総大将、酒呑童子
はまたもや《夢幻世界》に侵攻する。戦える者の少ない付喪神達は危機にさらされていた。
そんな中夢幻世界の長である物部九十九は《人界》、《妖怪世界》などから協力を要請し、
扇の付喪神《緋扇 幻夢》を総大将のもと、迫りくる鬼族達の猛攻を食い止めるのであった。
小説 ~第一次鬼神戦記禄~
第一話 百鬼夜行前夜(鬼陣営)
ー 鬼神界 《二角派》 酒呑城 ー
「むむ……んん~、ぐぬぬ…。だぁーーっ!もう嫌じゃー!」
「突然大声を張り上げて。どうされたのですか酒呑様?」
「どうしたもこうしたもないわ!わらわは戦がしとうて仕方ないんじゃ!」
「どうかお気を確かに酒呑様。つい先日、鬼姫殿に怒られたばかりではありませんか。もうお忘れに?」
「忘れる訳がないじゃろうが!あれだけ近くで延々と説教されれば嫌でも耳につくわ!わらわは戦がしたい!戦がしたいぞぉ!」
「駄目でございます。それより酒呑様、私めは今しがた退屈を紛らわす術を思いつきました」
「ほう?どれ、申せ。もしつまらぬ事であれば切腹する覚悟は出来ておろうな?」
「はい、もちろんでございます」
「なんじゃ?申してみよ」
「私の体を思う存分。好きにして構いません」
「切腹じゃ」
「何故でございます!?」
「何故も何もあるかい!どう考えてもおかしいじゃろが!」
「何もおかしな事はございません。だって、私はこんなにも酒呑様の事を愛しているのですから」
「きもいわっ!」
「あう…酒呑様ぁ~」
「酒呑様。この陰摩、只今戻りました。あらあら、またお戯れに?これはお邪魔でしたかぁ?」
「違うわっ阿保!こやつが勝手に脱いだんじゃ!!」
「酒呑様が退屈と申しておりましたもので…この身をささげていたのです」
「捧げるでない!わらわはそんなもの望んでおらぬ!」
「ふふっ、とても仲がよろしゅうございますね」
「これのどこが仲良く見えるか!?どう考えても襲われておろう!ええい!さっさとわらわを助けよ!」
「うふふっ。そう言う事でしたらこの陰摩めも……えいっ」
「ええい!お主もか!辞めよ~っ!」
「な、何をやっておるのだ?」
「……」
しばらくの沈黙が流れる。
「ち、違う!断じて違うぞ鬼丸よ!これはじゃな!」
「酒呑様と来たら、私の体をご所望のようでしたので……」
「貴様はいいから黙れ!話がややこしくなるだけじゃ!」
「今しがた城下町の見回りから戻った。特に異常はない」
「ええい、何かないのか!何でも良い!申せ!ほんの些細な事でも構わぬ!」
「御意。では……」
鬼丸は話始める。さぁて、どんな話になるのやら……。
☆
ー 少し前 ー
「ここも異常なし……と」
私は酒呑様の命により、城下町の見回りを任されていた。この世界では《一角派》と《二角派》に別れ鬼族達が暮らしている。そして、そんな二つの派閥に別れたこの城下町ではいがみ合いは少なくなかった。
「あら?見回りご苦労やなぁ。鬼丸はん」
「お前は…牛丸か」
「えらいなぁ。鬼丸はんわ。あんな大将の言う事聞いて」
「当然だ。私は主様の忠実な下部。主様の為に尽くすのも当然だ…まぁ確かに……私もつくづく本当にこれで良いのか疑問に思う時がある……そうだ。何か異常はないか?」
「異常もなんもあらへんよ。お陰様で楽しく暮らせてはりますわ。おおきにな」
「そうか……」
「あ!いた!八千代~!!」
「あらあら空羅はん。どうしはったんや?」
「腹減ったぞ~!空羅何か食いたいぞ~!」
「さっき出店でたらふくご飯食べたばかりやないか。もうお腹空いたんか?」
「空いたぞー!みたらし団子が食べたいぞー!」
「はいはい、いこな?ほな鬼丸はん。すいませんけどうちらはこれで失礼しますわ。今後もこの町の事。よろしゅうお願いします」
「うむ」
二人はさっていく。
「この辺りは以上なさそうだな」
私は次に店が建ち並ぶ場所へと向かう。
(ん……?あれは…熊童子か?こんな場所で何を?)
「おお~!店主!この斧はまた立派だな!」
「それは最近入ったばかりさ、どうだい?」
「よし!買うぞ!この斧をくれ!」
「毎度あり~」
「おい、熊童。こんな所で何をやっている?」
「くまっ!!?びっくりしたじゃん。誰かと思えば鬼丸じゃないか、おらは見ての通り!新作の武器を買いにきたのだ!」
「この前も買っていなかったか?」
「あれはどうやらおらに合わなかったみたいでさ、この前の薪割りで折れてしまったわけよ」
「お前の怪力は度肝を抜くほどだからな。仕方あるまい」
「お、おらはそんなに力ないぞ!」
この者は熊童子。私と同じく酒呑様にお仕えする者。山中、熊と鬼との間に出来た獣人だ。田舎育ちなせいか、自分の事をおらと言う少し変わったやつだ。
「怪力勝負でお前に勝てた者などいない。いい加減認めろ」
「と、所で鬼丸はこんな場所で何をしてるんだ?まさかお前も武器探しか?」
「違う。私はこの刀を替えるつもりはない」
「だがその刀、もうボロボロだぞ?」
「放っておけ。それより熊童。この辺りに異常はないか?」
「全然ないぞ!それに安心しろ!もしこの町を脅かす者がいるようならこのおらが返り討ちにしてやる!」
「そうか、分かった。では私は引き続き見回りを
続けるとしよう」
「面白ろそうだな、おらも行くぞ!」
「…好きにしろ」
☆
続けて向かった場所は羅城門。人界にあるという門を模したとされる鬼門。ここより先は隣の世界。九十九神達の住まう世界と繋がっているらしい。そしてこの門を守るのは酒呑様が最後の従者。御門 亜沙禍が守っている。
「亜沙禍。いるか?」
「これはこれは。誰かと思えば鬼丸様ではないですか。それと……あぁ。熊さんでしたか?」
「誰が熊さんくまっ!おらは熊童!いい加減覚えろ!」
「あら……これは失礼。それで?私に何か御用でしょうか?」
「むむむっ…どうもこの者は好かん」
「少し黙れ。…ここ数日で何か変わった事はないか?」
「変わった事などございません。あぁ……、そう言えば…」
「何だ?」
「ここ数日。お姉様が私に冷たくするのですわ。この前だってそう……」
「それはお前が悪いと思うが……」
亜沙禍は少し 変わっている。こことは反対側に位置する朱雀門を守る姉、御門 亜朱禍をお姉様と慕い。愛しているようだ。その点ではうちの茨城と似た所がある。まったく……。この世界にはこのような者ばかりなのだろうか?
「まぁ、その様子では異常はないようだな。引き続き頼む。行くぞ。熊童」
「あいよ!」
「お待ちくださいな」
「何だ?まだ何か用か?」
「そう言えば先日。天鬼と言う者が訪ねて参りましたわ。なんでもこの世界の長に話があるのだとか……」
「天鬼か、聞いた事のない鬼族だな。分かった。気に止めておこう」
私達は一度報告をする為、城に戻る事にした。
(……ん?あそこにいるのは……縊鬼か?)
「珍しいな、こんな所で何を?」
「……?私がここで何をしていようと……あなたには関係ありません……私はただ……ここから見える景色を眺めているだけです」
「そうか……丁度よい、この場所に誰か通らなかったか?」
「……いいえ、見ておりません……」
「貴様。何か隠しているだろ!おらには分かるぞ!言え」
「よせ、彼女は見てないと言っている。それ以上は野暮だ」
「ちっ、分かったよ」
「すまぬな縊鬼。邪魔をした」
「……いいえ……お気になさらず……」
☆
「おい鬼丸。何故先は止めたのだ?あいつ、絶対何か隠しているぞ?」
「そうかもしれぬ。だがあまり詮索しない方が良い」
「なぜだ?」
「お前、知らないのか?あいつの噂を」
「噂だと?」
「奴は縊鬼。かつて人だったもの、怨み辛みが生み出した霊の類だ。人界の霊など、何を考えているかわからんからな」
「なるほどな~」
「この世界は皆が皆、純粋な鬼と言う訳ではない。人に怨みを抱き鬼となったもの。我々のように元から鬼だったもの。もしくはそのどちらでもない者の集まりだ」
「おらは少なくとも生粋の鬼族だな!」
「いや?お前の場合、人と獣人の間に出来た者。つまりはそのどちらでもない者……だな」
「くまっ!?」
「気付いてなかったのか?」
「なるほど、なかなか難しいな」
「お前は力任せすぎる。もう少し頭で考えたらどうだ?」
「うるさい!放っておけ!頭を使うのは得意ではないのでな!」
「まあいい。とりあえず酒呑様に報告しにいくぞ」
☆
「と、言う訳だ」
「って平和そのものじゃないかぁぁぁ!まったくもってつまらん!!それでも誇り高き鬼族か!?……ふぅ……で、その熊童子はどうした?一緒ではないのか?」
「この場所に来る途中、鮭を焼く匂いがした。もしかしたらそれにつられたのかと」
「だぁぁぁ……。まったく使えん奴じゃ」
「ご安心ください酒呑様。あなた様も相当使えません」
「は?おい茨木よ、今何と申した?」
「いいえ、何も」
(気のせいか?今わらわの事を使えんとか聞こえた気がしたが……)
「それより酒呑様。そろそろお夕食の時間です
」
「おぉ、もうそんな時間か、どれ…本日はどんな美味に会える事やら」
「酒呑様。お夕食をお持ち致しました 」
「うむ!ご苦労!」
「本日は鮭の鬼釜焼き……そのの成れの果てでございます」
「くま?」
「貴様ぁ!!?またしてもわらわの鮭を食ったなぁぁ!!」
「お、お許しください酒呑様ぁぁ!」
「まったく、どうしてここはいつもこうなのだ。今目の前で熊童の肩を揺すっている者が…私が忠誠を誓った長だと思うと泣けてくる」
「まったく、貴様が配下についてからと言うもの、わらわは鮭を食した事がないわ!それもこれも全てお前のせいじゃからな!分かっておるのか熊童子!」
「も、申し訳ありません。つい美味しそうな匂いがしたもので……」
「やかましい!切腹じゃ!」
「まぁまぁ。熊童子殿も深く反省している様子。代わりといってはなんですがこの私を……」
「いるか!と言うか脱ぐな!」
「うぅ……そんなぁ~。酒呑様ぁ……」
「ふぅ……付き合ってられぬ。私は夜の偵察に行ってくる」
☆
ー 鬼神界 《一角派》 鬼ノ城 ー
「鬼姫様。客人でございます。如如何致しましょう?」
「ほう?こんな夜更けに客人とは珍しい。よいよい。通せ」
「はっ」
「鬼姫様、髪が乱れておりますよ。今お整え致します」
「よい、客人が先である。後鬼よ、さがっておれ」
「はい」
「鬼姫様。お連れ致しました」
「お初にお目にかかります。鬼姫様におかれましてはご機嫌うるわしゅうございます」
「見ぬ顔であるな。そなた。名は何と申す?」
「天鬼にございます。以後お見知りおきを」
「天鬼とな、はて、聞いた事がない。そなた。誠に鬼であるか?」
「私はつい先日まで人界で暮らしておりましたもので、ご存知ないのも無理ないかと」
「なるほど、人界の者か。そのような者が何用じゃ?」
「人界にて小耳に挟んだのですが、近々隣の九十九界の者がこちらに攻めいるであろう……と」
「それは誠か?」
「左様にございます」
なるほど、はめる策か。
「出て行け」
「はい?」
「この場所から今すぐ立ち去れと言っておる。聞こえなかったのか?」
「何をおっしゃいます?私の事が信じられないとでも?」
「では聞こう。何故九十九界ではなく人界で、九十九界の話を聞く?」
「それは当然。人界には今でも九十九界の者供が多くいらっしゃいます。九十九界の話を聞くのは当然かと」
「阿保。長らく人界に住んでおったそなたが何故、九十九界とこの世界の事を知っておる?天族なればいざ知らず、九十九神の方からコンタクトを取らぬ限りありえぬわ」
「……」
「出て行け。二度と世の前に現れるでない」
「ふぅ……。そこまで言うのなら仕方がありませんね。これだから頭の良い人は嫌いです」
(気配が……変わった?)
「前鬼!」
「はいっ!鬼姫様は私がお守り致します!」
「あなたが付き人さん?ふふっ、とっても可愛い。どう?私のもとに付きなさいな」
「くせ者めっ!口を開くな!はあっ!」
「あらあら怖い怖い。こんな小さな子にまで戦わせているなんて……ね!」
「ぐっ…!この者……強い」
「そこまでじゃ!」
鬼姫様はくせ者の背後に回り込む。
「なっ……いつの間に?」
「一度しか言わぬ。とく去るか、それとも今この場で打ち首か、どちらか選ぶがよい」
「あーあ。本当につまらない。……うふふっ、あははははっ!」
「鬼扇!……消えたか……なるほど、始めから本物ではなかったか……」
「姫様!ご無事ですか!?申し訳ありません。力足らずでした」
「よいよい、それよりもとんだくせ者が入り込んだようじゃ。前鬼、後鬼よ。かの者の気配を探れ」
「「はい!」」
「さて……、千夜。もうよいぞ、出てまいれ」
「……はい」
「そう怯えずともよいよい。《鬼ノ門》より人界へ行き、とある村に住む里鬼という娘をこの世界に連れてきてもらいたい。よいか?」
「承知しました。鬼姫様」
「それと、一人で人界に行くのは恐かろう。よってもう一人同行してもらうぞ?飯綱よ」
「えっ……?」
「宜しく、えっと……千夜ちゃんだっけ?」
「よ、宜しく……お願い……します」
「この者は飯綱。人界に詳しい者じゃ。この者と共に人界へ向かうがよい」
「は……はい」
「じゃあ行ってくるわ、鬼姫さん」
「千夜に飯綱。頼んだぞ?」
(さて、これからどうなる事やら……)
☆
私は鬼ノ門より人界に降り立ち、人里へと向かう。この鬼ノ門は人界と鬼神界を繋ぐ唯一の門。門の前で念じれば、すぐに目的の地へと誘ってくれる。そして人界からこの鬼神界に帰ってくる為には鬼符と呼ばれる符を使わなければならない。
「じゃあ行くわよ千夜。目をつむって念じて」
「は……はい」
「門よ……開けっ!」
辺りは炎につつまれる。
「ほら着いたわ。開けてみて」
「え……わぁ……びっくりした……」
「さてと、事情は鬼姫からある程度聞いてるわ。里鬼を探すのよね?」
「はい……えっと……そのよう……です」
「そんなに怯えなくてもいいわ。気を楽にしなさい」
「は、はい」
「じゃあとりあえず、まずは村の中をまわってみましょ」
私達は村を一通りまわる事にした。しかし夜も遅いせいか里鬼というものは見当たらない。
「この村であってるはずなんだけどなぁ……」
「あ、あの……もう帰りましょう……。私……その、恐いです」
「何言ってるのよ。千夜ちゃんは鬼姫に見出だされてるんでしょ?それって凄い事なんだから。もっと自信もちなさいよね」
「はい……ありがとう……ございます」
「さてと、とりあえずもう一まわり……」
その時だった。遠くで障子が勢いよく倒れる音がした。
「うわぁ!!!、こ、こっちくんなぁ!」
「ひ、ひぃぃ!出た!鬼だっぺ!」
「どうやら噂をすれば……みたいね」
「私は……私は!血が……欲しい……人の……血が!」
「う、う……うわぁぁぁぁぁっ!!!」
「はっ!」
「た、助かっただ?お、おら生きてるだ?」
「いいから早く逃げなさい!」
「ひ、ひぃぃっ!化物ーっ!」
「まったく、助けてあげたのに何よこの態度。失礼しちゃうわ。千夜ちゃん!」
「あ……あ……あぁ……」
「千夜ちゃん?ってあなた……その目……」
「あっはははははっ!!!」
「ちょ、ちょっと!どうしたの!?」
「みんな壊す!破壊する!あははははっ!」
「ど、どうしたの?ねぇ!ねぇってば!」
「血が……欲しいぃぃ!」
「こっちはこっちで!…もう!一体何がどうなってるのよ!」
二人が争い始める。私には何が起きたのかさっぱり分からなかった。
(あの子……さっきまで怯えていたのに……どうして?)
「って考えている場合じゃないか、早く二人を止めないと!」
「あぁぁぁぁっ!」
「はぁぁぁぁっ!」
(二人とも、力が制御出来てないの?だったら!)
「もう!どうなっても知らないわよ!とっておき食らいなさいよね!鬼島流奥義!羅刹!烈風迅っー 飛燕 ー!」
「「……っ!!?」」
「斬っ!」
「「あぁぁっ!?」」
「はい、終わりっと。どう?頭冷やした?」
「……あ……私は……何を?」
「……あ、えっと……」
「もう、あなた達会った途端急に理性を失うんだから」
「うぅ……ごめん……なさい」
「あの……あなた方は一体?」
「あたしは鬼島 緋井呂。こっちは千夜」
千夜ちゃんはぺこりともせずあたしの後ろに隠れてしまった。
「あなた、里鬼…よね?」
「里……?それはなんなのですか?」
(あ、そっか。知らないんだ)
あたし達鬼族は始めから異名がついているのもと、大将より異名を授かるものに分かれる。
きっとこの子はこれまで自分が鬼族と知らずに生きてきたんだ。
「えっと、あなたの名前は?」
「荒村 ……里根と申します」
(なるほど、だから里鬼か……)
「なんだ!何の騒ぎだ!?」
「おい!あっちからだぞ!」
(やっば!見つかる!?)
「二人とも!話は後、とりあえずここから退散しましょ!」
「え……えっと……その…私は…」
「いいからっ!」
あたしは里根の手を掴む。
「千夜ちゃん!符を出して!」
「え?あ、はい」
「キシンカイ!」
☆
「ふぅ……危なかった……」
「あの……何がどうなったのでしょう?」
「ここは鬼神界。あたし達鬼族が暮らす世界よ」
「鬼族が暮らす……世界……」
「えっと、とりあえずついてきて、この事を鬼姫に報告しないと」
あたし達は鬼姫のいる《鬼ノ城》へと向かい、鬼姫に今回の件を報告するのだった。
「ご苦労。そして千夜の件であるが……」
「申し訳……ありません……鬼姫様。またしても私……」
「よい、想定していた事じゃ。その為に飯綱を同行させたからの」
「ってちょっと!最初からこうなる事知ってたの?はぁ……言ってくれればいいのに」
「言ってはつまらぬであろう?そなたの腕も確かめたかったからな」
「大人しいように見えて意外と腹黒いのね」
「何か申したか?」
「い、いえ」
「よい。そして里鬼よ、突然このような状況に驚いているであろう。世はこの鬼ノ城を治める《一角派》の将。《鬼姫》鬼ノ城 温羅と申す。この世界は鬼族の世界。人あらざる者が暮らす世界ぞ。今日からそなたはこの世界で人に悩まされず暮らすがよい」
「はい……その……本当に良いのでしょうか?」
「安心しなさい。この世界にはあなたみたいに人界から来た人は沢山いるわ。あたしもそうだから」
「鬼島様も……なのですか?」
「えぇそうよ。それに、この子もね」
「……はい……その……通り……です」
「この子なんて可哀想よね、まだこんなに小さいのに鬼族だと分かった瞬間。人間から嫌われるんだもん……でも、この世界は違うわ。誰もあたし達を嫌う人はいない」
「飯綱の言う通りじゃ。安心するがよいよい」
「ありがとうございます……私が鬼だと知ったのはつい最近で、それからどうしていいか分からずいました……ですから……とても助かります」
「改めて鬼神界にようこそ!荒村さん!」
「お、鬼姫様ぁ!!た!大変です!!」
「何事か?」
「《二角派》の将。酒呑童子様が隣の世界。九十九界を攻める模様です!」
「あの大うつけ者が!恥を知れ!」
「如何いたしましょう?このまま放置すれば九十九界との戦は避けられぬかと」
「前鬼、後鬼、そち達はこれより城下町に赴き、鬼族達に此度の戦には参加するなと伝えよ。酒呑めに従った者は相応の対応をすると」
「「御意!」」
「あたしも協力するわ!荒村さんも来てばかりで申し訳ないんだけどいいかな?」
「はい。私で良ければ……」
「わ……私も……」
「すまぬ。そして千夜。そちはこの場に残るがよい」
「…はい……」
(やはり恐れておった事が起きたか……)
☆
ー 少し前 ー
「と、言う訳でございます。《九十九神》達は今も尚、あなた様の首を取ろうと策を練っている段階。攻め入るなら今かと」
「なるほど、報告ご苦労。あいわかった!天鬼とやら。実に大義であった。下がってよい」
「私めの言葉に耳を貸してくださり光栄の至り。ふふっ…それでは私めはこれで……あなた様に勝利を」
「……良いのですか?鬼姫殿の承諾なしで」
「よい!あやつの承諾など得られるものか!」
「酒呑様もお人が悪いようで。そこまで言うのなら……分かりました。この茨木。主の御心のままに」
「お前ら!戦の準備をせい!夕食なぞ後で良いわ!」
「「はっ!」」
「ふっふっふっふ。わらわを打ち取るなぞ笑止千万!目にもの見せてくれるわ九十九神共!!我が誇り高き鬼族めに喧嘩を売った事。後悔させてくれる!これであの鬼畜姫にも鬼族は戦いこそが本望と言う事をわからせてやるわ!」
☆
「と、言う訳なのです。なので此度の戦は加担しないように……と。出来れば他の《二角派》の者達にもお伝えください」
「わざわざご苦労さんやなぁ。安心してええよ?うちはあの馬鹿大将はんを止める事は出来んけど、それなりに人脈はあるつもりどすえぇ。それにうちら《二角派》でもあの馬鹿大将を信じとるんわ配下のものだけやさかい。安心してええよ」
「かたじけない!あ!そこの者。少し良いですか?実はですね……」
☆
「鬼姫様!町の者へと伝達。終わりました」
「ご苦労。して、どうであった?」
「はい、《二角派》の酒呑童子一派の連中を除き、ほとんどが戦う意思はない。との事です」
「よいよい。大義であった。鬼族が戦いに生きる時代は終わった……。それでよい。あの大うつけの好きにはさせぬ。では千夜、世はこれより少し留守にする。この場は少し任せようぞ。よいか?」
「は、……はい! その……いってらっしゃいませ」
「ではついてまいれ、前鬼、後鬼。無駄であろうがあの大うつけの真意を問いただしに行こうぞ」
「「はいっ!お供致します!鬼姫様!」」
小説 ~第一次鬼神戦記禄~
第二話 美しき夢幻世界(付喪神陣営)
私は扇を畳の上に置き、念じる。
「さあ、目覚めの時ですよ、私はあなたに名付けます。あなたの名は…」
扇に手をかざし、私は扇の名を呼んだ。
「緋扇 幻夢(ひおうぎ げんむ)」
すると扇はある一人の少女が召還された。これが、九十九の儀と呼ばれる。
物に魂を宿らせる儀式。
「我、緋扇 幻夢。召還により参上しました」
あなたには今日からこの世界を駆け、来るべき鬼神界からの進行を阻止して
もらいたいのです、この世界の日常を鬼達から守ってください」
「主の命、承知しました」
「そんなに畏まらないで幻夢、私はあなたより年下なんだから、夢幻世界の子
達と仲良くね」
「そう言う事なら。わかったわ」
「九十九神達の中には、戦えない子達がたくさんいるの。だからあなたのその
扇で、鬼を薙ぎは払って!」
「ええ、主に貰ったこの命。主の為に使うわ」
「言ってらっしゃい。幻夢!」
☆
私は和室の障子を開け、見晴らしの良い場所に出た。辺りは紫色の紅葉と、赤い
桜がひしめいている。
「ここが…夢幻世界…とっても綺麗…」
召還された時にある程度の知識は頭に入っている。この世界にはもうすぐ鬼達が
やってくる。この世界の裏側にある《鬼神界》。そこからの進行を阻止しないと!
まずは私と同じように戦える子達を集めないといけない。その為には九十九神達の
情報を集めないといけないわね。
私は柵に足をかけ、その場所から飛び降りある事を唱える。
「炎翔!」
私の能力は、自由に空を駆け回る事。九十九神達の中で唯一風を操れる九十九神と
して私は召還された。
「まっててね九十九!私はこの夢幻世界を絶対に守ってみせるから!」
まず始めに、他とは少し違う一軒の家を空から発見する。私はまずその場所に降
りてみる事にした。
(和処……こころ?)
看板にはそう書かれていた。おそらくここは、食べ物屋なのかも。それだったら
都合がいいわ。ここで少し聞いてみましょう。私は戸を開ける。
「あ!いらっしゃい。和処こころへようこそ~。空いてる席に座って~」
何やらほんわかした子が、駆け寄ってきた。私は言われた通り空いている席に腰かける。
「はい。お茶どうぞ、ゆっくりしていってくださいね~」
「あ、ありがとう。……ねぇ、このお店に戦えそうなお客さんとかいたりしない?」
「えーっと、あんまり見ませんね…、何かありました?」
「あ、うん、いいの。ちょっと戦えそうな人を探してて…」
(やっぱそう簡単には見つからないか…)
辺りを見渡してみるも、それらしい人はいないようだった。私はそのまま和菓子を頼み、
一服する。するとその時、お店の戸がガラリと音をたてる。
「いらっしゃいませ~。空いているお席に…」
「そなた。この店は持ち帰りは出来るか?」
「あ、はい!お持ち帰りですね!何にしましょう?」
「みたらし団子を頼もう!」
(あの子…、他の子と何か違う……)
そう思った私は彼女の元へ歩み寄り、声をかけた。
「ねぇ、あなた、もしかして戦えたりしない?」
「ん?なんじゃお主?見ない顔じゃな」
「私は緋扇 幻夢。扇の九十九神よ。今訳あって戦えそうな子を探しているの」
「扇とな。わらわは小槌の九十九神じゃ、まぁ一応戦えん訳ではないが…」
「お待たせしました~!みたらし団子です」
「おおぉ!これがみたらしとな!うまそうじゃあ~」
そう言って彼女は団子を受け取り小槌を一叩きする。すると小判が出現した。
「ありがとうございました~」
《和処こころ》を後にし、話の続きをする。
「うーんうまい!うまいぞこれは!」
「あ、あの~それで戦える…のよね?」
「わらわの小槌は良い事をした者には幸福を、悪い事をした者には災いを与える。
まぁそんな所かの。うーんうまい!」
「実は、もうすぐこの地に《鬼神界》から鬼達が破壊の限りを尽くしにくるの。
それで今、戦えそうな人を探してて」
「なんと!それは一大事!よかろう。妾も微力ながら協力させてもらおうぞ!」
「ありがと!一緒に鬼の進行を食い止めましょ!えっと…あなたは?」
「我が名は内弖 小町(うちで こまち!)良き者には幸を与える小槌の九十九神
であろうぞ!」
「小町!宜しくね!じゃあ私は他の子達を探してくるから、物部神社に向かって
くれる?」
そう言って私は古町と一度別れを告げ、次の協力者を求めて飛び立った。
「次はあのお城のような場所ね。きっとあそこにも誰かいるはずよ!」
そして私はお城の窓から中へと侵入した。
「わっ、誰なの?」
「あ、驚かせてしまってごめんなさい。私は扇の九十九神、緋扇幻夢」
「ご丁寧にどうもなの、私は櫛奈田 ときの、櫛の九十九神なの。宜しくなの」
「櫛…かぁ。ねぇ、この辺りで戦える人知らない?」
「何かあったの?」
ときのは不安そうに首を傾げてくる。
「実は近々鬼神界から鬼達が攻めてくるの。それを食い止めてくれる協力者を
探していて、誰か知らない?」
「それは大変。それだったら刀華ちゃんがいいと思うの」
名前を聞く限り、きっと刀ね!刀の九十九神ならきっとすごい頼もしいと思った。
「その人、刀の九十九神よね?名前はなんて言うの?」
「天切 刀華ちゃん、なの。とっても強くて優しいの。刀華ちゃんなら紅桜の生い
茂る山で修行をしているの、きっとすぐにわかるの」
「ありがと!助かったわ!じゃあ私もう行くね!」
「あ、まってなの」
「どうかした?」
「はい、これ使ってなの」
「これは……櫛?」
「私の宝物なの。戦いで髪が乱れたら大変。だからこれで直すといいの。
少しでも協力したいから」
「うん。ありがと。また返しにくるね!」
「うん、待ってるの……その頑張ってなの」
私はとっきーのに手を振って別れた。さっそくとっきーのの言っていた紅桜の生い
茂る山を探さないと。
そして私は一面に赤い桜が生える場所に見つけ、降りる事にした。
(きっとここね)
歩いていると、一本の紅桜の根元に少女が一人、腰をおろしていた。
「もしかして、あなたが刀華さん?」
「ふえ?…ひゃっ」
和んでいた最中なのか、突然の声に驚いたようだった。
「あ、ごめんね、休憩中だった?」
「あ、いえ、大丈夫です。それで私に何かご用ですか?」
「あ、ええと、もしかしたらあなたが刀の九十九神なのかなって思って…」
「ううん。違います。私は草踏 履奈。草履の九十九神です」
あ、本当だ、気が付かなかったけど、帯の部分に草履が顔をだしていた。
「ごめん。人違いだったみたい。でもどうして…その草履、履かないの?」
「あ、これですか?これは私の宝物なんです。お姉ちゃんと片方ずつ持っていて、
それに、草履の九十九神が草履を履いていたら、自分を踏んでいるみたいで…」
「そうなんだ、とても良い心掛けだと思う。
ごめんね、邪魔して。ありがと」
そう言って私は手を振って別れ、刀華さんと言う人を探す事にした。
いったいどこにいるんだろう?そう思いつつ辺りをキョロキョロしていると、
何かを降っているような音が聞こえてくる。音のする方を見てみると、
そこには刀の素振りをしている女性が一人。
(刀…うん。きっとこの人ね!)さっそく私はその人の元へと近付いていく。
「天切 刀華さん?よね?」
女性の素振りはピタリととまる。
「はい、確かにそうですが、……どうして私の名前を?」
(やった!見つけた!)
私はこれまでと同じように名を名乗り、鬼神界から鬼達が攻めてくるの事、
協力者を探している事を話す。
「そう…。でもごめんなさい。私はもう…誰かを傷つけたくないの、だから…
あなたの誘いには乗れない」
「そっか……ううん。気にしないで、私の方こそごめんなさい。でも、もし
また気が変わったら物部神社に来て。もちろん。無理にとは言わないから」
女性はこくりとうなづいた。
「あなたは、優しいのね…」
紅桜を後にした私は、次の場所へと向かう。その途中、刀華さんの事を考えていた。
(九十九神にもいろいろなのね、もっと戦いが好きな人なのかなって思っちゃ
ったけど…)
私が次に向かった場所は、とっきーののいたお城から少し離れた所ある場所、
建物が建ち並び、行き交う人々も多そうだった。
(さて、と次は…)
「ほらほらお姉ちゃん!もっと楽しまないと!折角のお祭りなんだし!あれ
買ってよ」
「えぇ!?美鬼ちゃんまだ食べるの?」
(前から歩いてくる三人…、姉妹だろうか?三人ともお面をしてるから、きっ
とお面の九十九神ね)
今日この場所はお祭りのようだ。さっきの妙に明るかったものは提灯の
明かりだったみたいね。歩きながら行き交う人々を見渡す限り、戦えそうな子は
いないみたい。
(風車に毬…本に傘…ううん。どれも違う)
そう思っていたら、不意に誰かとぶつかった。
「ひゃっ!ごめんなさい。あれ?」
おかしいわね、確かにぶつかったと思ったけど。
「大丈夫?」
声のした方を向くと、そこには市松人形が喋っていた。
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
(出た!幽霊!!私、昔からダメなの!)
「怖がらないで、私もこの子も…九十九神よ」
「人形の九十九神?……なの?」
「そう…それより……怪我はない?」
「あ、うん私は全然平気よ」
「そう…よかったわ」
そう言って少女は建物の影に消えていった。
(はあ~ビックリした~。あの子…本当に幽霊…じゃないのよね?ほんと、
いろんな子がいるなぁ)
とりあえず情報収集!どこかお店を探さないとね!少し歩いていると、
何やら看板の出ているお店を見つけた。
(やった!さっそくお店発見!えーっと、ここは)
「反華呉服店?」
着物や帯を売ってるお店かぁ、あんまり期待できないけど、ちょっとだけ
覗いてみましょ!
私は戸をガラリと開ける。
「いらっしゃい!着物や帯の事ならなんでもお任せ!反華呉服店にようこそ!」
「あ、ええと、着物を買いに来た訳じゃなくて、人を探してて…」
「ちょっと冷やかし?それなら余所にいってくれない?」
「お、お姉ちゃん駄目だよ!お客さんに失礼…」
「私こそごめんなさい。でも今他にあてがなくって」
「ふぅ、まあいいわ、それで?誰を探してるの?」
「えっと、このお店に戦えそうな人が来たりしなかった?今戦えそうな人を
探してて…」
「お姉ちゃん、誰か知ってる?」
「うーん。うちは呉服屋だから、あんまりそう言う人来ないのよね」
「そうよね、お邪魔してごめんなさい。他を当たってみるわ」
「あ、そう言えばお姉ちゃん。ほら?あの人はどうかな?この前特注で作って
欲しいって頼んできた人」
「ええっと、確か主がどうとか言ってた人?」
「その人の事。詳しく聞かせてくれない?」
私は二人からその人の特徴を聞いた。
「ありがと!その人探してみるわ!」
「次は着物買いにきなさいよね!」
「お、……帯もありますから!」
「うん、機会があったら是非買いにくるから!」
そして私は反華呉服店を後にし、その人を探す事にした。今回はどこにいるのか
は分からないから、一つ一つ見てまわらないと!
その後もいろいろな場所を巡ったが、特にそれらしい人は見当たらなかった。
(うぅ…、疲れた~。ちょっと休憩してもいいわよね?)
私はお社近くの階段で腰を下ろす事にした。
「見つからないの?」
ふと声のする方を見ると、いつの間にか隣に小さな女の子が座っていた。
「うん。この夢幻世界って本当に広いのね、色々な人がいて、皆それぞれがそれ
ぞれの生活を送ってる。戦えそうな人の方がむしろ少ないくらい」
「そんなあなたに伝言!あなたが今探し求めてる人は今夜、《鬼神界》と繋がる
門に現れるよ」
「え?それって。あなたは一体……?」
あれ?さっきまでいたはずなのに。幻?でも、あの子供が言っていた場所、
ここからそう遠くないはず、とりあえずいってみるしかないわよね!
そして、あの子供の言っていた門に向かう。
(確か……このあたりのはず……)
「行って!狐さん達!」
あれ?誰か…戦ってる?
「ここから先は通さないわ。あなた達悪鬼は私がここで滅するから!はぁっ!」
(相手は…鬼?!どうして、もうこの世界に攻めて来たの!?)
私は真っ先に彼女の加勢に向かった。
「奥義!火炎舞仙!やあぁ!」
「ぐぎぁぁぁぁ!」
「大丈夫?あたしも加勢するよ!」
「ありがとう。こいつは強いわ。油断しないで!」
私は瞬時に駆け、相手の後ろにまわりこむ。
「式神 妖狐!狐火!」
彼女の式神から黄金の狐が出現した。それ事態が炎で、それに触れた悪鬼が燃え
盛り、雄叫びをあげている。
今がチャンス!
「行くわよ!奥義!緋炎乱舞! はぁぁぁ!」
これが、私の《緋色の巫女》の力。
「はぁ…はぁ…やった…のよね?」
「はい、私達の勝ちです。助けてくださりありがとうございました。えっと、
あなたは?」
「私は緋扇 幻夢。扇の九十九神よ。宜しくね。あなたは式神の九十九神…
であってる?」
「いかにも、私の名は 式神 霊。式神の九十九にして主様が所持していた最初の
式神。今回は本当に助かったよ」
「ねぇ、実はあなたに協力して欲しい事があるの」
私は霊に近々《鬼神界》から悪鬼の進行がある事を話す。
「なるほど、やはりさっきの鬼はその偵察か」
「え?どう言う事?あれよりも強い鬼がいるの?」
「正直、今まであの手の輩がこちら側に来る事はなかった。それに、あれはまだ
下級の方だろう」
「そんな!じゃあ今の私達の戦力じゃ鬼の将は歯が立たないじゃない!」
「《鬼神界》を束ねる総大将、酒呑童子。そしてその下部である茨城童子か。
恐らく、どっちも只者じゃない」
「そんな…じゃあこの夢幻世界は…」
「安心して欲しい。私も協力する」
「霊…ありがとう。きっとこの先辛い戦いが待っていると思う。でも、これから
宜しくね。一緒に鬼の進行を止めましょう!」
そして、私は霊を連れ、一度物部神社に戻る事にした。
「遅かったの~もうわらわは待ちくたびれたぞ」
「ごめんね、ちょっと手こずっちゃって…」
「九十九!みんな揃ったみたいだよ!」
あれ?この子はあの時の…
「幻夢。皆を集めてくれてありがとう。これで全部?」
「ごめんね、本当はもうちょっと集まると思ったんだけど」
「ううん、いいの。九十九神達は戦いに向いていない子達が多いから仕方ないよ」
今回集まったのは、小槌の九十九神。式神の九十九神の二人だけだった。そして、
九十九は詳細を話してくれる。いづれやってくる鬼の大進行《百鬼夜行》。
そして《鬼神界》の総大将《酒呑童子に茨城童子》。いったいこの先どうなって
行くんだろう?
この紫の紅葉と紅桜が生え渡る美しい九十九神達の住まう《夢幻世界》。
その暮らしを、世界を絶対に私達が守ってみせるから!
「…もうすぐ、《百鬼夜行》が始まる。果たして彼女達はどう立ち向かうのかしら?
しっかりと、見届けさせてもらうわ……」
小説 ~第一次鬼神戦記禄~
第三話 百鬼夜行(鬼陣営)
「まだ戦の準備が出来ぬと申すか!?茨木よ!わらわは戦いとうて仕方ないぞ!この時間!どうしてくれよう?」
「はい、酒呑様。申し訳ありません。もうしばらくのご辛抱を」
「ぐぬぬ…、おぉ!そうじゃ!茨木よ!お主、今この場でわらわを何か楽しま……」
「かしこまりました。では」
彼女は着物を脱ぎ始める。
「だから脱ぐなぁぁ!それ以外と言うておる!」
「お楽しみになるのでしょう?私は常にこの身、この心も全て酒呑様に捧げております故」
「よい!わらわへの忠誠は心だけで充分じゃ!それにわらわにそんな趣味はないわ!」
「…ぐすん。酒呑様のいけず…」
「露骨にがっかりするでない!」
わらわが対応に困っていると、天守閣の窓から偵察に行っていた陰摩が帰投した。
「酒呑様。ご報告にございます」
「おぉ!陰摩よ!で、どうであった?!」
「ふふっ、酒呑様ぁ。茨木ばかりとお戯れになって、私も混ぜてくだされば良いのに……」
「違ぁう!戯れてなどおらぬ!どさくさに紛れて貴様も誘うな!……まったく。…で?報告とは、勿論良い知らせなんじゃろうな?」
「はい、もちろんでございます。九十九界への戦の準備。完了致しました」
「おぉ!聞いたか茨木よ!戦じゃ戦じゃ~!この時を待ちわびておったわ~」
「はい、酒呑様」
「しかしながら、妙でございます。この陰摩、先程かの地の石の門前まで偵察に行って参りましたが、我々を迎え撃とうとしている者はわずか三名にございました」
「あっはっはっは!聞いたか茨木よ!わずか三名でわらわの首を取ろうとは笑止千万よ!」
「仕方のなき事、かの者達は所詮九十九神。物の神々にして戦に長けた者などございません。この世界で真に強いお方は酒呑様。あなた様だけにございます」
「よいよい。そうでなくてはな!して、こちらの戦力はいかに?ま、もののたった三名なぞわらわ一人でも純分よ!あっはっはっっは!」
「こちらの戦力は5名、それに眷属の小鬼どもが数十といった具合です」
「…は?」
「どうなされました?酒呑様」
「たったの5名…とな??他の鬼共はどうした?」
「それが、かの鬼神城に住む鬼姫様が。此度の戦、即時に中止せよと…他の者どもは皆、鬼姫様に従う…戦う意思はない……と申しております」
「酒呑様。人望なさすぎ…ぷっ」
「おい茨木よ、お主。それでも我の側近か?」
「失礼致しました。つい口が滑ってしまいました」
「悪いと思ってないな……やはり貴様はこの場で切腹じゃ!」
「いいのですか?私が欠ければこの城はまわらなくなるかと……」
「う……」
「それに酒呑様、先ほどお一人でもと申したではありませんか」
「え、ええい!うるさい!陰摩よ!この場にその5名を集めよ!」
「只今!」
☆
そして、わらわの元に6名の鬼族達が集った。
「羅城門が鬼にして守り手、御門 亜沙禍。参上つかまつりました」
「熊童子。主の命により馳せ参じたぞ!」
「鬼童丸。我が主の召還に応じ、馳せ参じました」
うむうむ。どれもわらわに仕える忠実なる下部よな。っていつもの面子か。まぁよい。
「よくぞ参った!…して陰摩よ、他の2名はどうした?」
「残り2名はこの場に最初からおります故」
「??…どこじゃ?見た所おらんようじゃが…」
「酒呑様、とぼけないで頂きたい。残りの2名、それは私、茨木とあなた様にございます」
「ふざけるなぁぁぁ!わらわが自ら全線に立てと申すか!?」
「酒呑様。あなたは先程わらわ一人でも純分とおっしゃっていたではありませんか」
「ぐ……そ、それは…と言うかお主もしつこいの。あれは言葉のあやと言うものじゃ」
「我ら鬼族の総大将ともあろうお方なら、ご自身の発言には責任を持って頂けますと」
「……茨木よ、お主本当にわらわに支えておるのか?」
「左様でございます。私はこの通り身も心も全て……」
茨木はまた脱ぎ始める。
「待て!分かった!わらわが悪かった!ええい陰摩!鬼姫を呼べ!きゃつめに一言言いたい!」
「かしこまりました…では鬼姫殿をこの場に…」
「その必要はないぞえ」
(なっ!?ま、まさか……)
階段から何者かが上がってくる音がする。それも一人ではない。
「これは鬼姫様、ご機嫌麗しゅうございます」
「よいよい茨木、頭をあげよ」
鬼姫、この鬼神界において、わらわと同じ位の地位を持つ姫君。わらわが二角派の総大将なれば、あやつは一角派の総大将。
(あやつさえいなければ今頃わらわが天下をとっておったと言うのに!!)
そしてその連れなるは前鬼と後鬼、こやつらもついて来たのは少々厄介じゃのう……。
「な、何の用じゃ?お主から直々に我が城、大江城に赴くとはな」
「我に一言言いたいようじゃな?ほれ?聞いてやろうぞ。言うてみるがよいよい」
「じゃあ言ってやろう!此度の戦を中止せよとは何事か!!血迷ったか鬼姫よ!我ら鬼族の誇りを忘れたか!?」
「血迷ったのはお主じゃ、もうあの一件以来この世界は変わっておろう。それなのにお主はまだ戦に拘るのかえ?」
「我ら鬼族は戦こそが使命!鬼姫よ!まさかそれを忘れたとは言わせんぞ?」
「いつの時代の事やら、ぬるい!温すぎる!お主は小鬼以下よな」
「言わせておけば!この姫のなり損ないめ!」
「よかろう。受けてたつ」
「あわわ……、お、鬼姫様!」
「お主らはさがっておれ!ここはこの阿呆に制裁を加えねば我の腹の虫が収まらぬわ!」
二人はしばらくの間戦った。しかし力は互角。どちらも一歩もひけをとらずその力を存分に使う。
「何故わからぬ?鬼は変わらねばならぬと言うのにも関わらず貴様は!」
「わらわは大将!大将の権限は絶対じゃ!なぜそんなわらわが鬼畜姫めの言う事を聞かねばならぬ!わらわは絶対じゃ!」
「ほう?ならば問おう?先代が敗れ行き場を失った二角の者共に手を差しのべたのはだれも心得る?」
「知らぬ!どうでもよいわっ!わらわに指図するでない!わらわは戦をする!弱き者は強きものにひれ伏す!それが世の常であろう!」
「このしれ者が!部をわきまえよっ!」
「ぐっ……わらわは……わらわは!!」
「……飽きた!この阿呆に付き合っているこの我の方が馬鹿らしくなってくるわ。帰るぞえ?前鬼、ご後鬼」
「鬼姫様……素敵です!」
「鬼姫様!先の戦いお見事でした!」
「よいよい、苦しゅうないぞえ」
鬼姫は去っていく、でも肝心の酒呑様はまだ納得行かないよう…。
「あぁそうそう。これだけは言っておこうぞ。此度の戦、確実にそなたの負けじゃ……そうと分かっても尚、止めぬと言うのなら好きにするがよい」
(ぐぬぬ……!今に見ておれ!この世界で一番偉いのは誰か、その目に焼き付けてやろうぞ!)
「酒呑様。鬼姫様はあのように申しておりますが、いかがいたしましょう?」
「構わん!わらわも出る!此度の戦、必ずや勝ち戦としてあやつめにぎゃふんと言わせてくれよう!」
「ふぅ……。承知致しました。ではいつ攻められますか?」
「今夜じゃ!茨木よ、準備が整ったらわらわに知らせよ」
「承知」
「鬼童丸よ!お主は石の門を攻めよ!敵陣形を崩せ!」
「承知。この鬼丸。主の御心のままに」
「羅城門の守り手よ、お主は己が門を死守せよ!」
「承知致しました酒呑様」
「酒呑様!おらは何処を攻めればよいのだ?」
「お主は影者が新入せぬよう、かの森林地帯を守れ!」
「りょーかいだ!」
「皆の者!今宵は久方の戦じゃ!存分に暴れまわろうぞ!」
「「「おぉぉぉ!!」」」
(我ら二角が…わらわが…一番……強いのじゃ…今宵こそそれを証明してやる……証明してやるぞ!)
☆
ー 開戦の時 九十九界 社殿前ー
「はわわ!九十九様!大変です!鬼族達が石の門より攻めてきたよ~!」
「こけし、落ち着いて。分かってるから」
「で、でも!このままじゃこの世界は!」
「そうさせない為に前から備えていたから大丈夫。彼女達がきっと終わらせてくれるわ。今はそれを待ちましょう」
ー 九十九界 石門前 ー
「ついに始まったな。百鬼夜行…」
「ええ、でも…やるしかない…唯一の救いは、鬼達がこの世界に来られるのはこの門だけって事ね…噂をすれば……来たわ!」
私の目の前に二本角の小柄な少女が現れた。
「余は鬼童丸!主、酒呑童子が命により攻めいった!いざ!尋常に勝負!!」
二刀流の刀とありふれた闘志。あの子…強い!
「幻夢!お前は先に!ここは私が!」
「私に任せてください」
「…え?」
この気配…もしかして!?
「天切 刀華…ここに馳せ参じました」
「刀華!よかった…来てくれたんだ…」
「私は戦うのは嫌…でも、この世界が、この美しき場所が傷つくのはもっと嫌…だから私は、
この美しき夢幻世界を守る為に戦います」
「…ありがとう。刀華」
「幻夢殿。それにそこの方、行ってください。この場は私が」
「いや、私も戦おう、その刀一本では心もとないかと」
「心配はご無用」
そう言って彼女は刀を抜き、構える。
「眠れ…悪しき者達よ…」
それは一瞬だった。彼女が刀を一振りした瞬間。続々と現れる何十と言った小鬼達を一瞬にして消したのだ。
「ふっ、どうやら無用の心配だったようだ」
「世の配下を全て壊滅させるとは、だがこれでお前と一対一の勝負が出来よう!行け、卑怯な手は使わん。いざ!存分に楽しもうぞ!」
「行ってください。この場は私が守ります!」
「霊!行くわよ!」
「わかった」
私は霊を連れ飛び立つ。目的地はもちろん。酒呑童子のいるお城だった。
☆
ー鬼神界 羅城門前 ー
「どうしてこの場所にあなたがいるの?唯一の扉は鬼童丸めが守っていたはず……!」
「ふふん。わらわを誰と心得る?わらわは誇り高き小槌の九十九神!打出 小町!幸運をもたらすわらわに貴様らなんぞの作戦は効かぬわ!
「ま、まさか!開戦前から忍び込んで!?」
「おぉ。一つ言い忘れておった、お主には幸運なぞやらんわ!代わりにこの不幸の小槌をくれてやろう!」
「きゃあぁぁぁ!!」
「妹はやらせないわ!」
小槌の攻撃が防がれる。
「ほう、朱雀門の鬼か、一人増えた所でわが幸運。なめるでないわ!覚悟せい鬼共!!二人まとめて相手してやろう!」
☆
ー 酒呑童子山 酒呑童子城 ー
「報告します。石門を攻めいった鬼童丸の陣営の半数が壊滅。鬼童丸は石門前にて九十九神と交戦中の模様!」
「なんじゃと!?羅城門の鬼を石門前へ向かわせよ!」
「残念ながら酒呑様。羅城門が鬼は先行して攻めいった者におされている模様!朱雀門が鬼も羅城門の加勢に向かいましたが、今も苦戦している模様!」
「なぜじゃ!?なぜ気付かなんだ!?」
「酒呑様。ここは退いた方がよいかと。向こうの方が数はこちらに劣りますが、並外れた者達がいるのではないかと」
「ならぬ!この戦…。勝ち戦にすると誓ったばかりではないか!」
「やはりそもそもこの戦いは何やら可笑しく思います!酒呑様、どうか私の話を!」
「嫌じゃ!聞く耳などもたぬ!わらわは…わらわは!勝たねばらなぬのじゃ!!」
「酒呑様!」
☆
ー 数日前 ー
「酒呑様。この城の主に会いたいと言う者がおりますが、いかがされましょう?」
「うむ。よかろう。通せ」
(わらわに直に会いたいとは、また一人、世の配下になりたい奴か?)
「お初にお目にかかります。酒呑童子様におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
「??見ない顔よな、名を申せ」
「は、…私は天鬼と申す者。この度はこの世界を統べる者である酒呑様にお知らせしとう事がございまして、人界よりやって参りました」
「ほう、天鬼とな、わらわは聞いた事ないが…。して?その知らせ、良い知らせなのじゃろうな?
」
「はい、もちろんでございますわ」
「よい、申せ」
「酒呑様。この場所より東に位置する地、九十九神達の住まう世界をご存じでしょうか?」
「うむ、そう言えばそんな場所があったのう。はて…名はなんと言ったか…」
「酒呑様、九十九神にございます」
「おお!そうじゃ!九十九神!でかしたぞ茨木よ!」
「此度はかの地にて戦の準備が進められております。きゃつらの目的はもとい、あなた様の首かと」
「なんじゃと!?それは誠か!?」
「はい、誠にございます。しかしながら依然この事態を知る者はまだございません」
「そなた、天鬼と言ったな?褒美を使わす」
酒呑様はこと時、天鬼とやらに何かを渡していた。
「ありがたき幸せ、それでは私めはこれにて失礼致します」
☆
ー現在 鬼神城 鬼姫天守閣 ー
「鬼姫様。始まったようです。二角派の陣営。おされている模様です!」
「あの阿呆めが、だから辞めておけといったのじゃ。負け戦と知ってそれでも尚攻めいるか、愚かな奴よ……」
「鬼姫様。いかがされますか?」
「放っておくがよいよい。自業自得じゃ。あやつの泣き顔を見るのは今から楽しみになってきたわ」
「しかし、このまま放置すれば九十九の軍勢にこの世界を占拠されてしまうのでは?」
「案ずるでない。きゃつらがそれほどの猛者とも思えぬわ、もしきゃつらから仕掛けて来たのなら我の下にも知らせが来るはず しかし、そんな知らせは未だない。まぁ、いづれにせよあの阿呆の敗北は目に見えておろう。こちらは引き続き天鬼とやらを探るとしよう。そこに答えがあるはずじゃ…此度の引き金は間違いなくきゃつの仕業。目的は分からぬが」
「鬼姫様がそうおっしゃるのなら…」
「前鬼、後鬼よ、この戦の行方、しかと見届けようぞ」
「「はい!」」
☆
ー鬼神界 上空 ー
「……妙ね…戦の最中の割には敵の数が少なすぎる」
「確かに、明かりがついているという事は皆家の中か?」
「卑怯で傲慢な鬼族にも生活がある…か…。無駄な血を流さない為にも、とっとと大将を打つわよ!」
「そうだな…幻夢!……見ろ!もしやあの城がそうではないか?」
そこには、一際大きなお城があった。
「この殺気…間違いない、あそこね!」
「どうする?降りて下から攻めるか?」
「まさか、もちろん。上からに決まってるじゃない!じゃあ、行くわよ!しっかりつかまって!突っ込むわ!」
☆
ー 九十九界 石門前 ー
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
(この娘…なかなかやる!世の二刀流をもってしても互角とは!)
「なかなかやるな、お前、名は何と言う?」
「天切 刀華。刀の九十九です」
「ほう、刀の…それはこの強さも納得できよう。世は鬼童丸、かの源 頼光と刀を交えた鬼である」
「なるほど、この隙のない構え、そして太刀筋、敵ながら見事と言っておきましょう」
「もしお前が世と同じ鬼族ならば、良き戦優になれただろうに、残念だ」
「それは私も同じ、しかしこれが定めである限り、私はその首、取らせていただきます」
「ならば遠慮はいらんな!」
「無用!はぁぁ!」
☆
ー 城外れの山道 ー
「ふっふっふっ、この森はおらの縄張りに等しい場所!酒呑様には感謝せねば!さぁかかってこい!おらはここにいるぞ九十九神共!」
(ザッ)
「そこかっ!」
「背後から攻めようとは、戦なれしているか?」
「ついに始まってしまったようですね」
「現れたな九十九神!ここで会ったがなんとやら!この斧の前に敵はない!降参するならいまのうちだ!」
「それはあなたの方…」
「くまっ!」
(な、なんだこいつ!九十九神にしては戦慣れしている!?)
「どうしました?さっきまでの威勢は?」
「ふんっ!おらを甘く見た事、後悔させてくれ……くまぁぁぁっ!!!」
「弱い……弱すぎです」
(おかしい……、おらの行動を完全に読んでいる!?あの武器は一体!?こいつ、本当に九十九神くま!?)
「今、あなたに構っている暇はありません」
「ふざけるなっ!おらを誰と心得る?おらは酒呑様が配下の一人。熊童子!」
「興味ありませんね」
「なっ!!?」
「私の目的はあなた達鬼族ではありません」
「嘘をつくなっ!我が主の首が目的なのは分かっているんだぞ!」
「否。私の目的はこの世界に忍び込んだ鬼あらざる者ただ一人のみ!斬っ!」
「なっ!おらの斧が!!」
「選びなさい。ここで死ぬか、降参するか。私は無益な殺生は望みません」
「……ちっ、おらの負けだ」
「いいでしょう。では……」
「待て!これだけは教えろ。貴様、九十九神じゃないな?何者だ?」
「《月の使者》とでも言っておきましょう。それでは」
「あーあ、負けちまったな~。これじゃあ酒呑様に怒られちまうよ……」
☆
ー 鬼神界 羅城門前 ー
「くっ、流石に二体一ではちょっと厳しいか…」
「あらどうしたの?さっきまでの伊勢は?」
(後から加勢したあの朱雀門の鬼とやらの持つあの笛…厄介な!)
「お姉様。どうやらこの者は口だけのご様子よ」
「そうね、その小槌、どれほどのものかと思ったけれど、口ほどにもなかったみたい」
「くっ!言わせておけば……!」
(わらわの小槌はもとい幸福や不幸を与える物。戦向きではない…。じゃがな!)
「さあどうしたの?かかってきたら?それとももうお仕舞いにする?ねぇお姉様」
「えぇ、それがいいわ。お仕舞いにしましょう。そうすれば我らが酒呑様もきっとお喜びになる」
「ふっ…ふっふっふっ、あーはっはっは!」
「お姉様。ちょっといじりすぎたみたい。この娘。気が狂ってしまったよう」
「それは可哀想に、早く終わらせてあげましょう」
「我が小槌は相手だけに使うものではない!こう言う使い方もある!ていっ!」
自分の頭を小槌で小突く。
「あらあら、やはりおかしくなってしまったようね、ついには自分を叩くなんて…」
「ふっ、忘れたのか?わらわが今自分に使ったのは幸福の小槌!もうすぐわらわには幸福が訪れよう!今に見ておれ堕鬼共」
「ふふっ、ねぇお姉様。どう思う?」
「そんな事起こるわけないでしょ……」
「伝令!我らが主!酒呑様が敗れ、城が落とされました!!」
「ば…馬鹿な!!」
「そんな…あり得ないわ!」
「見たか!これぞわが小槌の力なり!」
(ふっ…どうやらやったようじゃのう。幻夢よ…)
☆
ー 少し前 酒呑童子山 酒呑童子城 ー
(わらわは何も間違ってはおらん。おらんのじゃ…)
「酒呑様!どうか話をお聞きください!
これはあなた様の為でもあるのです!やはりこの戦は!」
「ならぬと言っておる!!陰摩よ…………全軍に伝えよ。これよりわらわも出る。それまでしばし耐えよと!」
「承知致しました。酒呑様」
茨木、わらわに付いてまいれ!きゃつらの世界の石門とやらに向かう!」
「させないから!炎舞扇!紅蓮!!」
「何者!?あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あろう事か、陰摩は障子ごと吹き飛ばされる。
「陰摩!!おのれくせ者か!!?」
「やっぱりここにいたみたいね、お馬鹿大将さん」
「酒呑様はやらせません!」
「お前が酒呑童子が側近。茨木童子か」
「おのれ!きゃつらに空を飛べるものがおるなど報告になかったぞ!?」
「えぇ、そうでしょうね、だって私はあなたを止める為に少し前に九十九に生み出された存在なのだから」
「ご安心を!酒呑様。あなた様はこの茨木めが守ります」
「茨木童子。お前の相手はこの私だ」
「その手に持っているもの…式神か!」
「左様。私は式神の九十九神にして誇り高き陰陽師に仕えた最初の式神。それがどういう意味か知らぬお前ではあるまい」
「陰陽師…あの対魔師か!おのれ厄介な!きゃつめにどれほどの同胞が敗れた事か…先代の酒呑様も最後はかの者に封印されたと聞く……」
「私とて無用な争いはしたくない。ここは手を引け」
「お断りします。わが主が戦い続ける限り、私は戦いましょう!」
「愚かな奴め…では…おして参る!」
☆
霊の方は始まったみたいね、あっちは任せるとして、私の相手はもちろん…このお馬鹿大将ただ一人。
「さあ?どうするの?」
(ここでわらわが敗れるわけには行かぬ……わらわは……わらわは!勝たねばならんのじゃ!)
この並外れた霊力、こやつが敵の総大将とみた。なればこやつを倒せば…わらわはっ!。
「わらわは誇り高き二角の鬼にして総大将!大江山を統べる先代酒呑童子が二代目。!酒呑童子!我が力に恐れよ!」
(もの凄い闘志…彼女は強いわ。最悪の場合、相討ちになるかも…)
「でも、私は九十九界を…あの美しい世界を守りたいから!」
「ほう?その霊力。まだ上があるか!面白い!わらわも久々に腕がなるという者!そなた、名は何と申す?」
「緋扇 幻夢。扇の九十九よ!はぁっ!」
私達は戦う。でも、この世界の上を飛んでいてわかった。彼女もまた、この世界を守る為に戦っているという事、お互いにそれぞれの暮らしを守る為に戦っているんだ。
「うおぉぉぉぉ!!」
(わらわは…敗れぬ!わらわは誇り高き鬼の将なのじゃっ!!)
「もうわらわの首を取りに来たなぞどうでもよい。わらわが勝つ!ただそれだけでよい!
もうこの天守閣がどうなろうと、民がどうなろうと知った事か!わらわが勝てばそれでよいのじゃぁぁ!」
「ぐっ…!しまっ!?避けられない!」
「受けてみよ我が力!!恐れおののけぇぇぇい!鬼神乱舞!!はぁぁぁ!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
☆
「幻夢っ!」
「ふふっ、どうです?酒呑様の大技。あの一撃を食らって無事だった者などございません。では私も……茨木流呪術!散華!」
「くっ!式神!小鬼!はぁっ!」
「へぇ?あなたも鬼を従えるのですか。さすがはかの対魔師の式神と言うもの……ですがっ!」
(押されている……か、だがここで敗れるわけにはいかない!私を拾い、九十九神にして頂いた九十九様の為にも!)
「はあっ!!」
☆
天守閣の半分が吹き飛ぶ、これぞわが必殺。
これを食らって生きていた者なぞ……!!?
「くっ…けほっ…やる…じゃない…扇で反らしてなかったら危なかった」
「ば…馬鹿な!!?これを食らって生きていた者なぞおらぬ!?」
「普通の人間なら……ね、でも私は違う。私は……九十九神よ!」
「そんな!?何故生きて……くっ」
「よほど主の事が気になるらしいな!だがっ!」
「認めぬ!……認めぬ!認めとうない!」
「ほんと馬鹿みたい。意地はって、自分のお城まで壊して…」
私はふと、彼女の後ろに落ちている物が気になった。
(あの扇…乱雑に使われ、最後には折られた形跡がある…ひどい…)
私は聞いた。
「ねぇあなた…その扇…どうしたの?」
「あ?おぉこれか、ふん。用済みになったのでな、折って捨ててやったわ!わらわには不要な物。欲しければくれてやるぞ?そう言えばそなた。先は扇の九十九神と申したな。ほれ、くれてやろう」
「……」
「どうした?ほれ、何か申せ」
「…許せない……」
「聞こえぬな?もっとはっきり申せ」
「許せない!私はあんたを絶対に許せない!」
「なっ…なんじゃ!?この場一帯が震えておる……!?」
「もう手加減なんてしない。……演舞。獄炎竜、火炎地獄!」
「ま、待つが良い!それは流石に……!わ、悪かった!わらわが悪かった!この扇は修復し、大切に使うと誓おう!」
「問答無用!」
真っ赤な紅蓮の炎に燃え盛るその姿。髪も赤く染まる。わらわの目にはこの瞬間。かの者が鬼のように見えた。
(あぁ……勝てぬ。わらわはこの者に敗れる…のか…)
「いけない!酒呑様ぁ!」
「背中を向けるとは迂闊なり!その隙逃さん!式神!白虎!」
(グォォォォォォ!!)
「しまっ!?ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「成敗!茨木童子敗れたり。あとは……」
「獄炎竜よ、愚者を飲み込め!はぁ!!」
「まだ!まだ終われぬ!鬼千烈覇ー獄炎ー!」
般若のような形をした力と、竜の形をした力がぶつかり合う。
「くっ……こんな所で負けられない!はぁぁぁぁぁっ!!」
「わらわが絶対じゃあぁぁぁぁ!!」
扇から放たれた炎の竜は般若の形をした力を食い契り、そのまま愚者を飲み込む。
「いっけぇぇぇぇっ!!」
「な……ば、馬鹿なっ!わらわの力があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
(そうか…真に恐るべきは人なぞではなく
九十九神…だったというべきか……後は…頼むぞ…我が下部達…よ…)
愚者を呑み込んだ炎の竜は、天守閣の壁を突き破り消えた。ぼろぼろになった愚者はそのまま下へと落ちていく。
「さようなら。馬鹿大将さん」
「酒呑様ぁぁぁぁ!」
ふと声がする。振り向く瞬間。私の横を何かが横切った。それは彼女の落ちていった方へと羽ばたいていく。
「まだ私の怒りはおさまらない。でも、とりあえずは終わった…。私達は守れたんだ。私達の世界、夢幻世界を…」
「やったな。幻夢。私達は勝ったんだ」
「うん。でもまだこの世界にはたくさんの鬼達が残ってる。またあの馬鹿大将のような奴が私達の世界に進行してくると思うと…ちょっと恐いわね」
「それは安心するがよい、九十九の娘」
「えっ?」
振り替えるとそこにはいつの間にか鬼がたっていた。
「誰!しまった、まさか私達を狙って!?」
「まぁ待て、我は此度の一件を詫びに来たのじゃ。それからこうなるに至った事の真相も伝えにな」
十二単を着た一本角の鬼がそこには立っていた。
「我は鬼姫にして一角の将。鬼ノ城 温羅と申す。九十九の娘よ。少し話をしよう」
それから私達は彼女の話を聞いた。今回の一件は二角派の将、酒呑童子による身勝手な進行。妙に思った一角派の鬼達と、主に手を焼いていた二角派の鬼族達は関与しなかったらしい。
そして、一番気になったのは、あたし達九十九神が酒呑童子の首をとる為、戦の準備をしている。と言うい点だった。その天鬼と名乗る鬼はどうしてそんな嘘を流したのだろうか?残念ながらその件については今の私達には知る術がなかった。
☆
「……ふぅ…どうやら主が敗れたようだ、戦もここまでのようである」
それを聞き、私は刀を納める。
「そうですか、ではお行きなさい。これ以上の戦闘は武士の名に恥じると言うもの」
「うむ。お前との戦い。実に楽しませてもらった。機会があればまたまみえようぞ!」
「そうですね…そうならない事を祈ります」
鬼童丸は撤退していった。
「終わったのですね……良くやってくれました。幻夢さん」
☆
翌日。一角派の将、鬼姫が九十九神達を束ねる将と話がしたいと言われ、私達は鬼姫を九十九界の主である九十九のもとへと案内した。
「そうですか、事情はわかりました。わざわざご苦労様です」
「此度の一件、酒呑童子に代わり世が詫びよう。そしてここに誓う。我ら鬼族はこの世界への今後一切の侵攻、戦を禁ずる…と」
「わかりました。あなたの言葉を信じましょう」
「その証として。ここに1人、使者を置いて行く」
すると、鬼姫の後ろから小柄な女の子が出てきた。今まで隠れていたのだろうか?もじもじとしている。
「ほれ千夜よ。九十九の将めに挨拶をせよ」
「は……はい。その……千夜と申します。よ、宜しく……お願いします」
「この者は少々人見知りな部分があり難儀しておるが、見かけによらず凄まじい力を持っておる。馴れれば良き仲間となるであろうぞ」
「わぁ。可愛い。私は物部 九十九って言うの。宜しくね、千夜ちゃん」
(あ、九十九が素に戻った)
「……うん!」
「さて、用は済んだ。世はとく去ろうかのう。ではさらばじゃ九十九の子らよ。隣接した世界の者同士、今後良き交流になる事を願うぞ」
そして、鬼姫は手下の二人の鬼を引き連れ去っていった。こうして、百鬼夜行は最小限にとどまり、多少の負傷はあったものの、幸い町への被害は出ずに済んだ。千夜ちゃんと言う可愛らしい鬼族も新たに加わり、戦に出た者は皆、それぞれの暮らしへと戻っていった。
ー 後日談 鬼神界 鬼神城 ー
「ほれほれもっとてきぱき動かんか。ほれ、早うせい」
「くぅぅぅ!なぜわらわがこんな事をせねばならんのじゃ!」
「酒呑様…自業自得でございます」
私の主、酒呑童子様は鬼姫様の命に背き勝手に戦を始めた事。それから酒呑様を打ち取った緋扇 幻夢とやらからの物を粗末に扱った罰としてしばらくの間、鬼神界にある小物を大切に磨きあげるという制裁をくだされていた。もちろん。私や陰摩も同罪らしい。さらにはその監修として、鬼姫様の目の前でやらされる始末。
「あぁぁぁぁぁぁもうよい!!やってられるかぁぁぁあ!」
酒呑様は磨いていた小物を床に叩きつける。
「主様!お気を確かに!物を粗末になされては!」
「主様の馬鹿……」
「ほれほれ、今ので傷がついてしまったぞ?
ほれ、前鬼や、追加を持ってまいれ」
「はい鬼姫様。これも全部お願いします」
「ぬぉぉぉぉぉ!!悪かった!わらわが悪かったから許してくれぇぇぇぇ!!もう嫌じゃぁぁぁぁ!」
ー 数日後 九十九界 ー
私は1人、この前の馬鹿大将が私達の世界に侵攻してきた理由である、私達が大将の首をとる為、戦の準備を進めているという嘘を流した天鬼について調べる為、古本の九十九神である棚本さんの書庫を訪れていた。
「鬼の名前が分かる本……かぁ」
「うん。人界の人が昔書き残した本…みたいなやつ。なんでもいいの」
「わかった。ちょっと待っててね!」
棚本さんはいろいろと探ってくれる。この場所には人界の人達が書き残したほとんどの本が残っている。中にはもう失われてしまったような本まで。これが全部この子の持ち物だと言うのだから凄い…。
「あったよ~。これなんかどうかな?」
差し出された本は妖怪大百科という本だった。
「確かに…人界でいう所の鬼って妖怪だもんね。うん、ありがとう。ちょっと借りるね」
私はその本を借り、パラパラとめくる。幸いその本には妖怪名が《あ行》から《を行》まで分かりやすく記されていた。私はさっそく《て行》を調べる。
「てんき……てんき……ん~。ないなぁ~」
鬼はおろか、てんが付く妖怪はわずか4名。どれもとても鬼とは関係のない名前だった。
「何が知りたいの?」
「あ、うん。《天鬼》って言う鬼についてちょっと知りたかったんだけど、見つからなかったわ」
「天鬼かぁ~。ねぇ、その《てん》って《あま》とも読めるよね?
「あま…か…なるぼど!そうね。確かに!」
私達は《てん》ではなく《あま》に絞って探る。それだと当然《あ行》だ。
「あま…あまがさ……あまねさく……あっ!」
いた。あまと名の付く鬼が1人…。
ー 鬼神界 鬼神城天守閣 ー
「天邪鬼(あまのじゃく)それが、主らに嘘を流した天鬼とやらの正体。そう世は睨んでおる」
「要するに、酒呑様はその者に騙された…と」
「うむ。そうなるのう。ほっほっほ。二角の長ともあろう貴様がまんまとはめられるとはいとおかし。それに世は忠告したはず。なのにうのみにしょって、揚げ句の果てにこのざまとは。ほっほっほっ」
「おのれ許さんぞ!わらわをたばかりをったな!そやつめ!もはや生かしてはおけぬわ!そやつのせいでわらわは城と名誉を失ったのじゃ!」
「城は自業自得じゃろう?それに主にもとから名誉なぞないわ。このお飾り大将めが」
「なんじゃと!もう一辺言ってみよ!貴様から八つ裂きにしてくれようか?」
「ほう?やれるものならやってみよ。ほれほれ
早うせい」
「ひ、姫様!酒呑様も!そんな事をしている場合じゃ…」
「そうじゃったな、失敬。してその者には少々難儀しておっての。鬼と付いておるが、こやつは鬼ではない。偽りの鬼なのじゃ」
「偽りの…鬼?」
☆
ー九十九界 ー
「偽りの鬼…か。彼女の目的はいったいなんだったの?この事。九十九に報告しなきゃ…」
ー鬼神界 鬼神城天守閣 ー
「これは少し厄介な問題になるかもしれぬな。
天邪鬼。天を邪魔する鬼とはよく言ったものよ。
きゃつめを放置すればいずれこの程度では済まぬ、全妖怪達をも巻き込んだ真の《百鬼夜行》が始まるかもしれんのう。そうならぬ事を節にねがうぞ」